地質と鮎の味
脇水鐡五郎
地質と植生に深い関係があることはよく知られています。したがって、それを食料とする動物にも地質は影響を与えています。以下、脇水鐡五郎『車窓から觀た自然界―東海道』からの引用です。
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美濃の三大川と鮎
美濃の三大川の、何れにも鮎はゐる。しかし香魚といはれる鮎特有の風味に至っては、三川の間に、可なりおおきな逕庭がある。一番大きく肥えてゐて香氣の最も高いのが、揖斐川の鮎、次が長良川の鮎で、木曾川の鮎が最も劣る。…(中略)…
鮎は孵化後、一旦は海に下り、海ではプランクトンを食して生長し、若鮎となって川に上り來る頃には、水面近くを飛ぶ昆蟲を食つてずんずん生長し、上れるだけ谷川を上って、長さ一〇センチ位となつてからは、盛に水中の小石に附いてゐる珪藻を食つて、生育を遂げるのである。それで川に珪藻の繁殖が盛であれば、鮎は思ふ存分な成長を遂げて肥大し、味も香氣も佳くなるわけである。
そこで、先づ揖斐川を見ると、この川は、濃飛高原西部の、粘板岩の多い古生層及び中生層の山の中を流れてをり、河底の石には、粘板岩の碎けた細土分が附着し、その石面は珪藻の繁殖するのに好條件を提供してゐる。この川の鮎が美味なのは、このためであって、初秋の頃、上流で簗で獲れる鮎は、頭は小さく、腹は太く、長さ往々四〇センチに達する。
次に木曾川を見ると、その本流は、源を木曾山中の花崗岩地に發し、主として花崗岩及び石英斑岩の中を流れて、平野に出て來るが、その大支流たる飛騨川もまた概ね、石英斑岩の中を流れてゐる。それゆゑ砂は概ね石英質で、珪藻の着生に適しない。そのためか、この川の鱒は、美味を以て聞えてゐるが、鮎は香気が乏しくて、味も佳くない。
最後に長良川を見ると、郡上郡に源を發する本流は、その上流は花崗岩や火山岩の中を流れてゐるも、中流と支流の板取川・武儀川・糸貫川等は、いづれも、古生層及び中生層の水成岩の中を流れてゐて、揖斐川と同じ條件となってゐる。それでこの川の鮎は、その品質が揖斐川に比して劣るも、木曾川より遙に勝る。
要するに、鮎の品質では、川の上流の地質によつて異なるものであると斷定してよいと思ふ。私の經驗では、一番品質の優良な鮎、殊に香氣の高い鮎は、粘板岩を主岩とする水成岩の山に産し、その次に安山岩、玄武岩などの火成岩の山のものが佳く、砂岩・角岩・花崗岩・石英斑岩・石英粗面岩などの、珪質の岩から成っている山の鮎は佳くない。
[引用文献]
脇水鐵五郎(1942),『車窓から觀た自然界―東海道』,284-288.
更新日:2007年12月31日