地質地盤情報協議会第3回意見交換会
 9月11日午後、産総研丸の内サイトで「第3回意見交換会」が開かれました。すでに運用されているボーリングデータベースの内容や運用上の問題点などについて報告がありました。
 まず、基礎地盤コンサルタンツ(株)の藤堂博明 氏による「ボーリングデータベースに対する地盤工学会の最近の取り組み」が報告されました。地盤工学会は都市地盤情報委員会(ACT10:Asian Regional Technical Committee No.10 for Urban Geo-Information)として活動しており、第1期(2002-2006)のワークショップや情報事例集の出版をへて、科学技術振興調整費による地下構造データベース構築への協力やアジア地域での地盤情報システムの普及・啓蒙等を目指す第2期に入っていることを述べられました。これは国際地盤工学会、国際応用地質学会、岩の力学連合会との共同委員会でもあります。そして、先進的な北海道と九州のデータベース構築を報告されました。特に九州地域はデータベース構築が現実化しており、公有地−私有地などの課題と対応方針を細かく検討していて、とても将来的な参考になりました。
 次に、千葉県環境研究センター地質環境研究室長の楠田 隆 氏が「千葉県地質情報インフォメーションバンクの経緯と現状について」報告されました。平成3年から積極的にデータベースを構築してきた結果、現在では約3万4千本の入力件数をかかえ、年平均3万件のウェブサイトのアクセスを数えていると述べられました。現在は市町村データの収集に努力し、年500件の新しい情報(紙情報)が入ってくるようになり、メンテナンスが大変であるとも述べられました。
 地質調査情報センターの角井朝昭氏から2003年にできたコアライブラリーについて紹介があった後、(財)地域地盤環境研究所の山本浩司氏より「関西地盤情報ネットワークに至る経緯と今後」について報告がありました。関西でのとりくみは20年以上にわたる「関西陸域」と「大阪湾海域」のデータベース構築が2003年7月9日から一体化、2005年からは「関西地盤情報ネットワーク」として活動していると述べられました。「ネットワーク」は「協議会」と「運営機構」と「研究会」の三位一体で活動しており、「協議会」は近畿地方整備局等の「官」の組織より構成され、(財)地域地盤環境研究所が「運営機構」をにない、「研究会」は主に「学」が担い、出版・講習会を行っているとのことです。神戸市は神戸地震をへて「じばんくん」の独自組織を持っているけれども、地盤情報は社会的資産であることを了解事項として、「関西地盤情報ネットワーク」とよく協調していることも報告されました。
 3つの報告の後、総合討論に移り、ボーリングデータの収集・活用のための法的整備にむけて、意見交換会の総意をまとめ、その法的整備および情報公開にむけて提言を準備していくことを確認して、懇親会に移りました。第4回は10-11月を予定しています。

地質情報展2006こうち
 9月16−18日、日本地質学会第113年学術大会が高知で開かれました。その時期に合わせて産総研・地質学会共催の「地質情報展2006こうち 黒潮よせるふるさとの地質」が高知市内の「かるぽーと」で開かれました。オープニングセレモニーでは中西穂高高知県副知事のご挨拶がありましたが、子供たちの理科離れ・地学離れと、来るべき南海地震を前にした防災のことの2点が県として大きな関心事であるといったお話でした。なお、中西氏は東大地質ご出身とのことです。
 展示の中にジオパークと地質百選および高知ジオパークのブースがありました。前2者は産総研が作ってくださったもので、高知ジオパークは仁淀川地区でジオパークを推進しておられる地元からの出展です。入り口の一番良い場所をご提供くださった産総研に感謝します。また、下の写真のように、佐川地質館所蔵の化石も展示されていました。この情報展はなかなか好評でのべ1,000人の来場者があったとのことです。
 ジオパークについては、初めて知った、大陸とは異なり狭い所に凝縮された多様性のあるジオパークという売り方ができるのではないか、等々の意見を頂戴しました。出展された地元の方からは、「私たち自身が、地質の魅力を再認識する良い機会となった。子どもから大人までが、展示を非常に興味深く見て・聞いて・触れている様子から、工夫さえすれば、高知県の地質が有効な地域資源・教育資源・観光資源になり得ると感じた。」との感想をお聞きしました。また、「今後、仁淀川流域の高知ジオパーク想定エリア5町村との連携を図っていく。モニターツアー等を実施してより具体的なニーズを掴んでいきたい。」といった抱負もお聞きしました。

ユネスコジオパーク第3次認定
 9月17・21日、北アイルランドのベルファストで第2回ジオパーク国際会議がありました。大矢会長も出席されましたので、詳細は次号で紹介しますが、その時、新たに12箇所世界ジオパークが認定され、都合45箇所になりました。新規認定は下記の通りです。

泰山(Mount Tai)世界地質公園(中国山東省)
王屋山-黛眉山(Wangwu-Daimei Mountains)世界地質公園(中国河南省)
海南省雷涼(Leiqiong Volcanoes)世界地質公園(中国広東省)
房山(Fangshan)世界地質公園(中国北京市、河北省)
鏡泊湖(Jingpo lake)世界地質公園(中国黒竜江省)
伏牛山(Funiushan)世界地質公園(中国河南省)
Comarea de Sobrabe Global Geopark(スペイン)
Subbeticas Global Geopark(スペイン)
Cabo de Gata-Nijan Global Geopark(スペイン)
Naturtejo da Meseta Meridional Global Geopark(ポルトガル)
Gea Norvegica Global Geopark(ノルウェイ)
Araripe Global Geopark(ブラジル)

全地連技術e-フォーラム2006に出展
 9月21・22日メルパルク名古屋で全地連技術e−フォーラムが開かれました。GUPIもブースを出して、活動内容のPRを行いました。地質百選について、ネット投票で選んではどうか、などといったご意見も頂戴しました。
新事業会社の話は唐突だったのでよくわからないから説明して欲しいといったご要望も多数お聞きしました。

紹介 絵本『おがわたくじ』
 地質学者の伝記が絵本として出版されました。こういう形の出版は珍しいことなので、とても喜ばしいと思います。小川琢冶(1870-1941)は、湯川秀樹(1907-1981)の父として有名ですが、地質調査所勤務の後、京都大学の地質学教室の創設に関わり、最初は文学科の地理学講座として始まったこともあって、新しい地誌学を作ろうとした地質学者です。琢冶死後、息子たちがまとめて出版した自伝『一地理学者之生涯』と湯川秀樹の自伝『旅人』を読むと、琢冶の人となりは伝わってきます。では、今回の絵本はどういう取り扱いをしているでしょうか。
 まず「地震はどうしておきるのか知っていますか」から始まります。濃尾地震を契機に地質学者になろうとしたこと、一所懸命に地質学を学び、地質調査に明け暮れしたことが主要な筋です。そして、琢冶の出生から結婚、家族、あるいは地質調査の間のエピソードなどが横糸として入り込んできています。この絵本の作成には科学史家の溝畑典宏氏と和歌山大学教育学部地学教室の此松昌彦氏との協力があったそうです。溝畑氏は「最近の防災意識の高まりの中,“湯川秀樹生誕100年”に合わせ、小生が提案し、実現致しました」といっています。地震とプレートテクトニクスの紹介が目立つことは、しかたがないのかもしれませんが、私はあまり意にそみません。また、明治33年はパリで万国地質会議があって、琢冶は30歳の若さで出席したのですが、誤って「パリ万博」ということばを使ったために、琢冶が侍姿で出席した絵になってしまいました。このようにいくつか気になるところもありますが、総じて琢冶のひたむきさの伝わる文章だと思いました。また絵本の命である絵の方は好感のもてるもので、特に和歌山の近くの新宮、獅子岩、那智の滝、橋杭岩などは秀逸と思います。
 この絵本は和歌山県をのぞいて、一般書店においてありませんし、Amazon等でも購入できません。私は東京・有楽町・交通会館B1Fのわかやま喜集館で購入しました。大阪はジュンク堂、堂島アバンザにもおいてあるそうですが、直接、発行元の「わかやま絵本の会」に連絡するのがよいと思います。
わかやま絵本の会は1985年に創設された会で、南方熊楠、華岡青洲、稲むらの火の浜口梧陵など、和歌山県に関連する民話や伝記などを絵本として出版し続けています。地元に腰を落ち着けた地道な活動と思います。こういう活動をしたいと思ってもなかなか継続するものではありません。素晴らしいと思います。地質学者の伝記を出版してくださったその勇気にも感謝したいと思います。(矢島道子)

郷土絵本『おがわたくじ』(文/松下千恵,絵/藤井博之)わかやま絵本の会、44頁、2006年9月1日発行、800円(税込み)

PDFファイル(85.7KByte)も用意しました。 こちらからどうぞ